大判例

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津地方裁判所 昭和26年(ワ)62号 判決

原告 西井勘治郎 外一六名

被告 小岸文右衛門 外三二名

一、主  文

被告等三十三名は原告等に対し連帯して金七万二千四百三十四円四十一銭を支払うべし。

被告小岸武史を除く爾余の被告等三十二名は原告等に対し連帯して金九万九千五百六十四円二十七銭を支払うべし。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその二を被告等の連帯負担としその一を原告等の負担とする。

この判決は第一、二項に限り原告等において金六万円の担保を供託するときは仮に執行することができる。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、被告等は連帯して原告等に対し玄米九十二石六斗五升を支払うべし、若し右玄米を支払うことができないときは金六十八万九百七十七円八十銭を連帯して支払うべし。訴訟費用は被告等の連帯負担とする。との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、明治二年中三重県度会郡下久具村は同村民訴外大西又右衛門外三十九名が同村の荒畑十町歩余を新田に開墾するため同郡上久具村と協議を遂げた結果上久具村においては同村地内の字木屋谷千四百八番一町八反三畝五歩を池敷地に字木屋谷池下より字東畑までの土地及び土丸林の土地二町八反三畝九歩を溝敷地(但附属地として水路修繕のための土取場を含む)として提供し、右訴外人等はその報償として毎年池敷地に対する弁米として玄米十一石四斗五升五合を溝敷地に対する弁米として玄米七石七升五合を連帯して上久具村に納入することの約定のもとに所謂地役権の設定契約を結び爾来引き続きその義務を履行してきたが、明治十年五月二十八日に至り右契約を更に明確強固ならしめるためにこれに関する規約書を作成した。ところがその後下久具村民は一村挙て身代限の宣告を受けるの不幸に陥り右訴外人等もこれを免れ得なかつたためその開墾地(以下要役地という)は大部分他人の手に渡り、爾来転々して明治二十七年頃には一時訴外小岸伊三松外三十五名の所有となつたがその後遂に被告等の所有となりここに前叙契約を承継して右池敷地と溝敷地(以下承役地という)を利用するに至つたのである。しかして一方承役地である右池敷地及び溝敷地の所有者であつた訴外上久具村においても亦明治十一年八月七日前叙の字木屋谷の池敷地一町八反三畝五歩と同池下より字東畑までの溝敷地である字斧尾千三百二十四番の内第一溝敷九畝二十一歩、同上辻合の内九百三十八番の内第六溝敷六畝八歩、同上字土丸林千百六番の内第一溝敷一反八畝歩、同上字前林千二百七十番の内第一溝敷一反二畝二十九歩、同上字松右衛門谷九百五十一番の内第一溝敷三畝三歩、同上字東谷千百三番の内第一溝敷五畝三歩以上合計五反五畝四歩とを度会郡田丸町大字下田辺訴外西井庄平外一名に売渡し、その後右土地は更に転じて元同郡宇治山田町大字河崎町訴外中村太助の所有となつたが明治二十六年六月二十日原告等(その先代をも含む)において右中村太助の相続人である訴外中村幸太郎よりこれを買取りその所有権移転登記をした。しかして前叙溝敷地二町八反三畝九歩の内右五反五畝四歩を除いた二町二反八畝五歩の土地は明治二十七年においては原告等の先代である訴外杉本甚次郎、藤田周次郎、西井長之助、西井音吉、中田熊吉、山本仙之亟、藤田嘉蔵等の所有であつたので、原告等は茲に右池及び溝の各敷地全部の所有者となり前叙契約を承継することとなり被告等も右約旨に従い昭和十年度まで引き続きその弁米を納めてきた。ところが被告等は昭和十一年度分以降の弁米については、前示契約に背きその支払いに応じなかつたので、原告等は昭和十三年安濃津地方裁判所に被告等(その先代も含む)を相手方として裁判上の請求をし昭和二十年度分迄の弁米については勝訴の確定判決を得たが昭和二十一年度分以降の弁米については被告等は言を左右にして原告等の請求に応じないから、原告等は茲に被告等に対し昭和二十一年度分以降同二十五年度分までの弁米玄米九十二石六斗五升の連帯支払いを求めると共に若し右弁米を現物で支払うことができないときは昭和二十六年三月二十五日物価庁告示第六十一号による同年四月一日より実施された玄米の消費者価格十キロ当り金四百九十円即ち石当り金七千三百五十円の割合によつて換算した金六十八万九百七十七円八十銭の連帯支払を求めるため本訴に及んだ次第であると陳述し、被告等の答弁事実に対し、本件承役地のうち池敷地一町八反三畝五歩及び溝敷地五反五畝四歩は昭和二十四年三月一日政府において自作農創設特別措置法に基きこれを買収したこと、原告等は右買収計画及びその承認の裁決に対しそれぞれ適式の異議訴願を経て取消の訴を提起し第一審において原告勝訴の判決を受け第二審において原告敗訴となり目下最高裁判所に繋属中であること及び被告等主張の日被告等より原告等に対し被告等主張の如き弁済供託がなされたことはこれを争わない。しかしながら、(一) 被告小岸仲蔵、同小岸しま、同小岸武史及び同大久保なかの先代大久保正治はいずれも前叙昭和十三年の訴訟において要役地の所有者として応訴しその弁米の支払義務を認められたのであり、その後も依然下久具村において右要役地田を所有し本件承役地の池水を潅漑して耕作してきたのであり、被告大久保なかは右大久保正治の相続人としてその地位を承継したのであるから右被告等はいずれも本件弁米の支払義務を負担するものといわなければならない。又右承役地は被告等主張の池敷地一町八反三畝五歩と溝敷地五反五畝四歩(長さ千八間幅員九尺の土地)のほか更に溝敷地及び附属地(字土丸林にある土取場等)として二町二反八畝五歩の土地も含んでおりその設定当時よりいまだ被告等からその返還を受けたことがなく現に被告等が池及び溝の修理その他にこれを使用しているのであるから本件地役権設定契約の拘束を受けるは当然であるのみならず元来地役権の設定は当事者の協約に淵源するのであるから承役地所有者の承認がなければ一方的にこれを消滅せしむることは許されない。被告等は右附属地二町二反八畝五歩を除き、右池敷地一町八反三畝五分と溝敷地五反五畝四歩の土地は自作農創設特別措置法により政府において買収したから原告等にその所有権がないと主張するが、その買収計画も違法であつてこれに対しては適法な異議訴願を経て行政訴訟を提起し目下繋属中であることは前叙のとおりであるから、右買収処分はいまだ未確定の状態であるのみならず、その登記名義は依然原告等にあり且つ右土地に対する昭和二十三年度乃至同二十六年度分の公租公課もすべて原告等において納入しているのであるからその実質上の所有権は依然原告等にあるものといわなければならない。(二) 本件承役地の利用関係は被告等主張の如き賃貸借関係ではなくして地役権設定契約であることは前叙のとおりである。即ち本件契約は要役地である下久具村の開墾田に潅漑するためその池及び溝の敷地として承役地を提供したのであるから、いわゆる引水地役権を設定したことは明かであり、設定後においても要役地並びに承役地の所有者に多くの移動をみたが依然右承役地の利用関係に変動を生じなかつたのみならず、明治十年五月二十八日に至り右契約を更に明確にするために要役地の各所有者は右承役地利用の報償としての弁米の支払を一部でも怠つたときは要役地田の全部に対する引水を差し止められるも異議なきことを定めた規約書を作成してその不可分性を明かにし、爾来その承継人もこれを忠実に実行して何等異議をさしはさまなかつたのであつてこれ等の事情に徴するときは本件契約は地役権設定契約にほかならないことは多言を要しないところである。したがつて右地役権設定契約の重要な内容をなす本件弁米債権も全承役地に結合する権利であると共に、要役地の全部に負わされた義務であつてその関係は不可分であるのみならず、前示規約書によれば弁米の支払を一部でも怠つたときは承役地の各所有者において要役地の全部に対する引水を差し止め得ることが明かにされており、その意味するところは地役権の存続する限り要役地の各所有者は弁米全部の支払義務を負担すると共に承役地の各所有者にその請求権があるというのであるから被告等の弁米支払の債務は不可分且つ連帯として特約されたことが明かである。しかして不可分債権関係にあつては各債権者は総債権者のためにその履行を請求できるは勿論不可分債権者の一人について生じた事項は、他の債権者に対しその効力を生じないし連帯債務にあつては債権者は一人又は総債務者に対し全部又は一部の履行を求めうるのであるから、承役地の所有権は各原告に分有されていても各所有する承役地の部分に対する弁米のみの請求に限らず総債権者のために全承役地に対する弁米全部の請求権があり、又たとえ被告等が各自その要役地の所有反別を異にしそれに従つて弁米を調達していてもそれは被告等の内部関係であつて原告等のあずかり知らないところであり、尚又不可分債権関係にあつては混同の規定の適用がないのであるから承役地の一部の所有者と要役地のある部分の所有者が同一であつても本件弁米請求権は混同によつて消滅することはない。(三) 被告等は本件承役地を以つて農地調整法(農地法)のいわゆる農地でありその弁米は同法による小作料であると主張するが本件承役地及びその弁米には同法の適用の余地のないことは同法を一読すれば極めて明白である。即ち同法は昭和十三年四月二日公布され、昭和二十年十二月二十八日、同二十一年十月二十一日、同二十二年十二月二十八日の数回に亘りその改正をみたが当初同法は農地を定義して本法において農地とは耕作を目的とする土地をいうと規定し、小作料の定義については何等規定しなかつたところ、その後の改正において同法第二条第一項に農地とは耕作の目的に供せられる土地をいうと規定し、且つその第二項は本法において小作料とは耕作の目的を以つて農地が賃借せられる場合における借賃又は同様の目的を以つて永小作権が設定せられる場合における小作料をいうと定義した。しかして右法条に耕作を目的とする土地とは、土地そのものが本来耕作に使用されることを本質とするもの即ち田畑等を指すのであり、耕作の目的に供せられる土地とは本来の性質は耕作を目的としなくても現実にその目的に使用される土地即ち宅地若しくは工場用敷地をも包含し、自作農創設特別措置法にいわゆる農業用施設を含むものではないことは言を俟たないところであるが、本件池及び溝敷地は耕作を目的とする土地でないことは勿論耕作の目的に供せられる土地でもないからあるいは農業用施設といえるかどうかは格別として、右法条にいわゆる農地に該当しないのみならずその使用関係は賃貸借でもなく又永小作権でもない地役権設定契約であるからその弁米を以つて農地調整法の小作料とみることは到底許されないしこれを準用することは不当である。(四) 尚本件承役地の所有者より要役地の所有者に対しては明治二十七年頃と昭和十三年の二回に亘り弁米請求の訴を提起し、いずれも承役地所有者の勝訴となり該判決は確定したのである。従つて該判決の既判力は独り主文のみに限定されるべきではなくそれに包含されている法的及び事実関係についての判断も亦その当事者及びその承継人に対して効力を有するものというべきところ、本件契約が原告等主張のような内容を有する地役権設定契約であり、従つて承役地又は要役地の所有者にその後変動があつてもその所有者は当然右契約の拘束を受け弁米についての権利義務も亦同様に移転すると共に、その関係は不可分連帯であること、本件溝敷地は被告等主張の五反五畝四歩とその附属地(土取場等)とを併せた合計二町八反三畝九歩であること等はすべて右判決により確定されたことがらであるから、該判決の承継人である被告等はその既判力によりもはやこれに反する主張は許されないのである。その他原告等の主張に反する被告等の主張事実を否認する。と述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は、原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告等主張事実中、明治二年頃三重県度会郡下久具村民訴外大西又右衛門等が同村において所有する開墾水田約十町歩の潅漑用水貯蔵の池及びその池水引用の溝を築造するためその用地として同郡上久具村民よりその所有の同村字木屋谷千四百八番に一町八反三畝五歩の池敷地とその池下から同村字東畑まで延長千八間、幅員八間この地積二町八反三畝九歩の溝敷地の提供を受けその使用の対価として毎年池敷地については玄米十一石四斗五升五合溝敷地については同七石七升五合の玄米を支払つていたこと、その後被告小岸しまを除く爾余の被告等は右開墾水田(要役地)の所有者となり右契約上の地位を取得する一方原告等が右池及び溝の各敷地(承役地)の所有権を取得し、右契約に基く権利義務を承継したこと、原告等主張の頃その主張の如き訴が提起され原告勝訴の確定判決があつたことはいずれも認めるがその他の原告等主張事実は全部これを争う。即ち (一) 被告小岸しまはかつて本件要役地の所有者であつたこともこれを耕作したこともなく、従つて前示弁米契約に全く関与したことがないから同被告には本件弁米の支払義務はない。しかして同被告を除く爾余の被告等が本件要役地の所有者であつたことは前叙のとおりであるが、同被告等がその所有者となつてからは本件池敷地一町八反三畝五歩と溝敷地の内五反五畝四歩(延長千八間幅員九尺の土地)のみを使用していたのであつてその余の溝敷地及び附属地については既にこれを原告等に返還してあるのであるから、この分についての原告等の弁米請求は不当であり、且つ被告小岸仲蔵は昭和十六年二月十日訴外堀之内文平に、被告大久保なかは昭和十三年中同堀之内初太郎に、被告小岸武史は昭和二十三年七月二日同小岸菊雄にそれぞれその所有田(本件要役地のうち)を譲渡し、前示契約上の地位より脱退したからそれ以後の弁米については同被告三名にその支払義務がない。又右被告小岸しま、小岸仲蔵、大久保なか、小岸武史の四名は勿論爾余の被告等においても現に使用する前示池敷地一町八反三畝五歩と溝敷地五反五畝四歩は昭和二十四年三月一日政府において自作農創設特別措置法に基きこれを買収し、原告等はその所有権を喪失したから同日以降は原告等に対しては何等の義務をも負担しないのである。尤も前示承役地は依然原告等の所有名義に登記されており、又原告等は右買収計画を不服としその取消の行政訴訟を提起し目下最高裁判所に繋属中(第一審原告勝訴、第二審原告敗訴)であるが、登記の効力はただ第三者に対し有を有たらしめるというのみであつて無を有にするものではなく、又行政訴訟を提起したからとてその取消の確定判決のない限り行政処分としての買収の効果には何等変更をきたすものではないから、登記の有無或は行政処分の取消の訴の有無に拘らず原告等にはその所有権ありということができない。(二) 仮にしからずとするも本件承役地の利用関係は民法施行前である明治二年頃に設定されたのであつて、当時としては地役権又は賃借権の観念を容れる余地がなかつたが我国においては民法施行前におけるこれと類似の契約は殆んど民法にいわゆる賃貸借関係であつたのであるから、右利用関係も民法にいう賃貸借契約とみるべきであり、その使用の対価としての本件弁米も賃料にほかならないのであるからその法律関係は悉く債権法の適用をみるべきところ、本件承役地は原告等全部の所有ではなくして池敷地と溝敷地の所有者をそれぞれ異にしているのみならず、右賃料債権は性質上不可分でもなく又不可分とする意思表示もなかつたのであるからこれを以つて共同債権或は不可分債権ということができない。従つて各原告においてそれぞれその所有する承役地についてのみの弁米を請求するは格別右承役地の全部についての弁米を請求することは許されない。又被告等は要役地田全部を共有しているのではなく、各自反別を異にそれぞれこれを所有耕作しており弁米も被告等の中から担任者を選んでその所有反別の割合に応じた額を取立てこれを原告等に提供していたのみならず、原告等との間に本件弁米の支払いにつき連帯の特約もなかつたのであるから、その各自の要役地所有田の反別の割合に応じてのみそれぞれ別個の弁米支払義務を負担するに過ぎないのである。しかのみならず原告西井勘治郎の家族である訴外西井収は田二反七畝歩、原告西井助雄は田二反五畝二十八歩、同山本久太郎の長男である訴外山本崔十は同三畝六歩、同中村儀一は同六畝二十六歩、同藤田政市は同三畝六歩、同中村京助は同一反三畝二十七歩、同中村良助は同一反十一歩、同藤田小太郎は同一反三畝二十一歩をそれぞれ下久具村において所有し本件承役地である池水を潅漑して耕作し、本件契約弁米十八石五斗三升の内各自の反別に応じてその支払義務を負担しているのであるから、右各原告はその限度において債務者の地位に立つものというべく従つて右原告等の本件弁米請求権はその範囲において混同によつて消滅したものといわなければならないから、原告等が被告等に対し右弁米全額につき支払を求めることは不当である。(三) 仮に被告等に本件弁米の支払義務ありとするもその額について争いがある。そもそも農地調整法第二条第一項(農地法第二条第一項)によれば耕作の目的に供せられる土地を農地と称すべきところ本件承役地の池及び溝敷地は被告等が訴外人数名と共に下久具村において水田九町四反余を開墾所有しその潅漑水を貯蔵しこれを右水田に引水するために借受けこれを右目的に使用しているのであるから、右承役地は正に同法にいわゆる耕作の目的に供せられる土地即ち農地であり、耕作の目的を以つて農地が賃借される場合における借賃又は同様の目的を以つて永小作権が設定される場合における小作料即ち農地の使用の対価としての給付は同法同条第二項(農地法第二条第七項)にいわゆる小作料であるから、本件弁米も亦右農地の借賃としての小作料であるといわなければならない。しかして同法第九条の二(農地法第二十二条第二十三条)によれば小作料は金銭以外のものを以つて給付することが許されず、その額も法定されているところ本件弁米は玄米であり、しかもその額は法定額を著しく超えているから被告等には玄米による現物の給付義務は勿論右法定額を超える金額についてもその支払義務がない。仮に本件承役地の利用関係は賃貸借にあらずして地役権設定契約であるとするも前者は債権であり後者は物権であるというのみであつて、両者いずれも土地の使用関係であることには変りがなくその使用の対価も前者は賃料又は小作料と称し後者を弁米と称するのみでその本質は農地の使用の対価であることは両者同一であるから右弁米も亦同法のいう小作料の観念に入るべきものであるといわなければならない。けだしこのようにみることは農地の耕作者の地位の安定を目的とする法の精神にも合するからである。仮に本件弁米を以つて右農地調整法等にいわゆる小作料でないとしても、凡そ米の価格には小作米換算額のほかにいわゆる生産者価格と消費者価格が法定されており、小作料は米を生産するための農地使用の対価であり、生産者価格は農耕者が米を生産するために要した労力に対する報酬(この中には生活費をも含む)、肥料代、農器具代、農地使用の対価(小作料又は地租)を勘案して定められた金額であり、将又消費者価格は生産者価格即ち政府の買上価格に販売手数料及び補償金等を勘案して決定された額であり各その性質に想をいたすにおいては本件弁米は少くとも右農地調整法等にいわゆる小作料に準じて取扱うべきであつて、右生産者価格又は消費者価格によるべきものではなくいわんや市場価格によるべきではないことはけだし疑を容れないところである。尚仮にしからずとするも本件弁米契約は明治二年中に約定され、爾来永年に亘つてそのまま履行されてきたのであるが昭和十三年に至り前示農地調整法が制定実施されその後数次の改正を受けて現在に及んでおり且つその間食糧管理法の実施により主要食糧の価格及び配給が極度に統制されるに至つたのみならず敗戦の結果に伴い社会情勢に急激な変化をきたした今日明治二年中に約定された右弁米契約は事情変更によつて当然その変更を受け農地法に基く小作料と同様の契約に変更されたものといわなければならない。しかして被告等は右法定小作料については昭和十一年度以降同二十四年三月末までの分として金四千五百十七円を昭和二十七年七月二十一日原告等に対し弁済供託をしたから原告等の右弁米請求権は既に消滅したのである。よつて原告等の本訴請求は失当であると述べ、尚原告等の判決の既判力に関する主張に対し、確定判決は民事訴訟法第百九十九条第一項の規定するとおりその判決の主文に包含せられるものに限り既判力を生ずるのであつて主文の示す判断の理由となつた法律関係には及ばないことは学説判例の一致するところであるから、原告等の主張する前後二回の確定判決の効力は本件には何等影響を及ぼすものではないと反駁した。<立証省略>

三、理  由

明治二年頃三重県度会郡下久具村民訴外大西又右衛門等が同村において所有する開墾水田約十町歩(要役地)の潅漑用水貯蔵の池及びその池水引用の溝を構築するためその用地として同郡上久具村民よりその所有の同村字木屋谷千四百八番の土地一町八反三畝五歩を池敷地として、その池下から同村字東畑に至るまでの土地二町八反三畝九歩を溝敷地として提供を受け、該各土地(承役地)にそれぞれ池及び溝を築造しその使用の対価として毎年池敷地については玄米十一石四斗五升五合、溝敷地については同七石七升五合を弁米として支払つてきたことは当事者間に争いがない。よつてまず右承役地の利用関係は地役権の設定であるか又は賃貸借関係であるかどうかについて考えてみるに、右契約は叙上の如く一方の十町歩にわたる開墾水田に潅漑する目的で他方の土地一町八反三畝五歩の溜池と二町八反三畝九歩の引水溝を築造し、右開墾水田に引水する権利を与えたものであるから、これとりもなおさず一つの引水地役権を設定したものとみるべきが相当であり、このことは田地潅漑ということの性質やその規模等よりするも一層明かであつて特段の事情のない限りこれを以つて単なる債権的効力のみを有する賃貸借関係とみることは許されない。尤も右地役権の設定は民法施行前であり、当時としては民法にいわゆる地役権の観念をいれる余地のなかつたことは言を俟たないところであるが、しかし民法によつて定められた物権はその施行前に発生したものであつても民法施行の日より同法に定められた効力を有することは同法施行法第三十六条の規定するところであり、その趣旨は民法にいわゆる物権と同一性質を有するものはその契約に民法の物権たることの文言の明示を欠くも民法上物権としての効力を有することを定めたのであるから、民法にいわゆる地役権と同一性質を有する前叙土地利用関係の設定は、たとえ民法施行前になされたものであつても、同法にいわゆる地役権としてその効力を有するものといわなければならない。又右土地使用関係についてはその使用の対価として要役地の所有者において弁米の支払義務を負担していることは前叙のとおりであり、地役権そのものは本来設定行為によつて定められた目的に従つて承役地を無償で要役地の便益に供する土地使用権であるから、この点のみに着眼すれば右土地使用関係は或は賃貸借関係であるかの如き観がないでもないが、しかし地役権の設定契約においてこれを有償とすることは何等民法の規定に牴触せず、その性質にも反しないから、当事者においてこれを有償とすることに定めても、その特約自体は地上権における地代又は永小作権における小作料の約定と異り、地役権の内容を構成するものではないというのみであつてこれがため何等地役権の性質や効力に影響を及ぼすものではないと解すべきである。従つて右設定契約に弁米支払の特約があるからといつて直ちにその契約を賃貸借関係であるとみるのはその本来の目的である右設定行為の内容を看過した見方であつて許されない。しかしてその後被告小岸しまを除く爾余の各被告は右要役地田の所有者となり右契約上の地位を取得する一方原告等が右承役地の所有権を取得して右契約に基く権利義務を承継したことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第二号証の一によれば被告小岸しまも少なくとも、昭和十一年以降本件要役地田の所有者として右契約上の権利義務を有していたことが認められる。尤も成立について争いがない乙第三号証には同被告が所有する下久具池内田地は本件要役地である下久具池下新田に含まれない旨の記載があるが、それはただ右下久具池内田地は本件要役地田に属しないという事実のみであつて同被告が予ねてより本件要役地田の所有者でなかつたことについては何等触れるところでないから右事実のみではいまだ前叙認定を覆すに足らない。ところが被告小岸仲蔵同大久保なか及び同小岸武史は各その主張の頃それぞれその所有する要役地田を他に譲渡し右契約上の義務を免れた旨主張するからこの点について考えてみるに、要役地の所有権に移動を生じたときは譲渡人は前示契約上の一切の権利義務を喪失すると共に譲受人においてこれを承継してきたことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第十、十一号証及び同乙第三、四号証の各記載によれば被告大久保なかは昭和二十六年六月十一日現在においては本件要役地田の所有権を喪失していたこと、同小岸武史も昭和二十三年七月二日その要役地田を政府により買収され同日被告小岸菊夫に売渡されたこと、被告小岸仲蔵は昭和十七年三月三日その所有に係る下久具千七十番の田三畝十歩を訴外堀之内文平に売渡したことが認められるが、被告大久保なかは昭和二十六年六月十一日以降は格別原告等主張に係る昭和二十一年以降同二十五年迄の間に本件要役地田を他に譲渡しその所有権を喪失したことについては何等これを認めるに足る資料がなく、被告小岸仲蔵においても右各証拠のみでは前叙の如く同被告はただ右田三畝十一歩を他に譲渡したというのみであつて該田は果して本件要役地に含まれるかどうか又同被告が有していた土地は右田三畝十一歩のみであつて他に本件要役地にその所有田がなかつたかどうかは明かでなく、却つて前顕甲第二号証の一に徴すれば同被告は右訴外堀之内文平に前示田三畝十一歩を譲渡した昭和十七年三月三日以後においても本件要役地田を所有していたことが窺われるから、被告大久保なか及び同小岸仲蔵の右抗弁は理由がない。被告小岸武史は前叙認定の如く昭和二十三年七月二日本件要役地の所有権を喪失しこれに伴う権利義務の一切はその譲受人に承継されたが、同日迄における前示契約上の義務はいまだこれを免れることができないから、この範囲における同被告の抗弁は失当である。次に被告等は、右要役地の所有者となつてからは本件承役地のうち池敷地一町八反三畝五分と溝敷地五反五畝四歩(延長千八間幅員九尺)のみを使用しその余の承役地は全部これを原告等に返還したから、この部分については本件契約上の義務を負担せずなお右池敷地一町八反三畝五歩と溝敷地五反五畝四歩も昭和二十四年三月一日政府において自作農創設特別措置法に基いて買収し原告等はその所有権を喪失したから同日以降は原告等に対し何等の義務も負担しないと主張するが、被告等が右池敷地全部と溝敷地のうち五反五畝四歩を除くその余の承役地を原告等に返還したとの点については被告等の主張にそうが如き乙第六号証の記載及び被告本人小岸悟朗の供述部分は後叙各証拠と対比し輙く措信し難く、却つて成立に争いがない甲第十二乃至第十四号証及び前顕甲第二号証の一の各記載に原告本人西井勘治郎及び前顕小岸悟朗(但し前叙措信しない部分を除く)の各供述を綜合すると、本件のいわゆる溝敷地は真に水路として使用されている部分とその修繕のために使用する土取場等の附属地を併せたものの汎称であつてその土取場は字土丸林内に存在しこれを合すると、その面積は依然二町八反三畝九歩あり被告等(但し被告小岸武史は昭和二十三年七月二日以降本件承役地を使用していないことは前段認定のとおりである。)は昭和二十六年以降についてはしばらく措き少くとも昭和二十五年迄はなおこれを要役地の便益に供していたことが認められるから、被告等のこの点に関する主張は理由がない。しかしながら右池敷地全部(一町八反三畝五歩)と溝敷地のうち五反五畝四歩については昭和二十四年三月一日政府において自作農創設特別措置法によりこれを買収したことは原告等の自認するところであるから、この部分については同日以降最早原告等には前示契約上の権利がないものといわなければならない。尤も右買収承役地は依然原告等の所有名義に登記されていること及び原告等は右買収処分の前提である買収計画を不服としてその取消の行政訴訟を提起し目下最高裁判所に繋属中(第一審原告勝訴第二審原告敗訴)であることはいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第七号証によれば原告西井助雄等は右買収処分後においても同土地に対する公租公課を納めていたことが明かであるが、登記はただその権利を第三者に対抗する要件たるに過ぎないものであつてその有無によつて実質的権利に変動を生ずるものではないから原告等にいまだ登記名義が残存していても右買収処分以後は原告等に右土地の所有権ありということができないし、行政処分はその執行によつて直ちに効力を生ずるのであるから、たとえその行政処分に対する取消の訴を提起してもこれが取消の確定判決がない限りその行政処分は有効であり、原告等がその後も依然右土地に対する公租公課を納めていても右買収処分の効力には何等影響がないものといわなければならない。又本件地役権設定契約に基く承役地所有者の弁米請求権は後叙の如く当事者の合意による不可分債権であつて該債権関係は合意による承役地所有権の移転に伴つて移転しその取得者は不可分債権者の一人としてその地位を承継してきたのであるから、あるいは原告等が右買収処分によりその承役地の一部の所有権を喪失し第三者がこれを取得しても右弁米債権については承役地の全所有者のためこれを行使しうるが如き観がないでもないが、しかし右債権はあくまで当事者の合意に基くものであつて性質上不可分のものとは考えられないのみならず政府の買収処分は当事者の合意による所有権の移転と異り自作農創設特別措置法に基く公権力の発動による所有権の移動であるから、これを以つて叙上の如き当事者の合意に基く所有権の移動の場合と同一に論ずることは許されない。けだし前示の如く合意による所有権の移転においては特別の意思表示がない限りこれに附随する弁米債権関係もそのままの状態で承継されるものとみるべきであるが、公権力による買収処分には右債権関係は性質上不可分の場合は格別かかる意思解釈の余地がないからである。従つて本件の場合はむしろ右承役地の買収処分によつてその部分に対する弁米請求権は分割され残余の承役地二町二反八畝五歩に対する分のみその所有者間において不可分債権の関係にあるものとみるのが相当である。そうすると原告等は被告等全部に対しては昭和二十一年以降被告小岸武史が前示要役地田の所有権を喪失した日である昭和二十三年七月二日迄の本件承役地全部に対する弁米請求権を有すると共に、被告小岸武史を除く爾余の各被告に対しては同年七月三日以降前示買収処分のあつた前日である昭和二十四年二月末日迄の本件承役地全部に対する弁米請求権と同年三月一日以降昭和二十五年迄の前示買収処分以外の承役地二町二反八畝五歩に対する弁米請求権を有するものといわなければならない。そこで右弁米請求権は不可分でありその支払義務は連帯によるものであるかどうかについて考えてみるに本件弁米についての債権関係はその基本をなす地役権の設定契約と同時に明治二年頃成立したのであつてその特約は地役権の内容となり得ないがこれに附随する要役地の義務として約定されたことはさきに認定したとおりであり、成立に争いがない甲第三号証の存在とその記載によれば明治十年五月二十八日に至つて右契約に関する規約書を作成し、要役地の各所有者は承役地の各所有者に対し承役地の利用の報償として本件弁米全部を毎年十二月末日迄に支払うべく若しその支払を一部でも怠つたときは要役地田の全部に対する引水を差し止められるも異議なきことを定めてこれを明確強固なものにしたことが明かであり、且つ要役地の所有者においてもその所有田の反別に応じ各自の弁米負担額を定めその徴収担当者を設けてそれぞれこれを取立てたうえその全額を承役地の所有者に支払つていたことは被告等の自認するところであるから、これ等の事実に徴すれば右弁米についての債権関係はその成立当初より不可分且つ連帯として約定されたことが明かである。しかして右弁米支払義務は本件地役権が設定された明治二年頃以来被告等が本件要役地の所有権を取得するに至る迄永きに亘りその間要役地、承役地のいずれにもその所有者に変動があつたに拘らず何等の異議もなく引続き履行されてきたことは被告等の明かに争わないところであるから、特別の事情が認められない本件にあつてはその当事者が前示特約や規約書を承認し従前どおりその権利義務を負担する合意ができたものと認めざるを得ないのであつて、被告等もその要役地の承継によつてかかる方式において弁米の支払を承認したものと認めるのが相当である。叙上の如く本件弁米の債権関係は不可分且つ連帯であるとすれば、承役地の所有者の中に原告等以外の第三者がいても又要役地田の所有者は被告等のみに限らず他に第三者が存在し且つ各自その所有反別を異にするも、原告等のみから被告等のみに対し右債権全部の履行を求めることは何等差支えないものといわなければならない。けだし民法第四百二十八条第四百三十二条によれば、不可分債権にあつては各債権者は総債権者のために全部の履行を求め得るし連帯債務にあつては債権者は債務者の一人に対し又は同時若くは順次に総債務者に対し全部又は一部の履行を求め得るからである。被告等は更にその主張の如く原告西井助雄及び外五名の原告等はそれぞれ本件要役地に水田を所有し本件承役地を利用し各自の反別に応じて右弁米の支払義務を負担しているから右原告等の本件弁米請求権はその範囲において混同により消滅したので被告等にその分の支払義務がないと主張するが、右原告等六名が本件において主張する昭和二十一年以降昭和二十五年迄の間に本件要役地田の所有者であつたことについては何等これを認めるに足る資料がないから、被告等の右抗弁は採用することができない。ところが何人も法定の除外事由がなくして政府以外の者に米の売渡又は譲渡をなすことは法令により禁止されているところであるから、本件弁米契約においてはその契約の成立当時は格別最早現在においては被告等は右契約に定められた玄米を現物を以つて履行することが許されないものと解しなければならない。しかしながら証人田畑米蔵の証言の一部(但し後叙措信しない部分を除く)及び当事者弁論の全趣旨によれば、本件弁米契約においては玄米自体の給付を目的とするが若し現物を以つて支払うことができないときはその支払期日における玄米の価格を以つて支払うことができる旨の契約が当事者においてなされていたことが窺われるところであり、右認定に牴触する甲第十四号証の記載の一部及び証人田畑米蔵、小岸悟朗の各証言部分はたやすく措信し難く他にこれを覆すに足る資料がないから、被告等はなお本件弁米契約に定められた玄米の支払期日におけるその代価の支払義務を有するものといわなければならない。よつてその額について考えてみるに、被告等は本件承役地は農地調整法第二条第一項(農地法第二条第一項)のいわゆる農地に該当しその使用の対価である本件弁米は同条第二項(農地法第二条第七項)の小作料とみるべきであるから同法の定める玄米の公定価格によるべきであると主張し、原告等は現在の玄米の消費者価格によつて換算すべきであるというが、右弁米は小作料であるとの前顕田畑、小岸両証人の証言は信用し難く農地調整法第二条第一項(農地法第二条第一項)にいわゆる農地とは耕作の目的に供される土地即ち地目の如何を問わず当該土地そのものが耕作の目的に供される土地をいうのであつて、その他の目的に供される土地例えば耕作の事業のために採草を目的とする土地の如きはこれを含まないことは同条第三項(農地法第二条第一項後段)の規定によつても明かであり、又同条第二項に小作料とは耕作の目的で農地が賃借される場合の借賃又は同様の目的で永小作権が設定されている場合の小作料(農地法第二条第七項は更に同様の目的で地上権が設定された場合の地代も含む)のみをいうのであつて、その他の土地の使用の対価を包含しないものと解すべきところ、本件承役地は耕作の目的に供される土地に潅漑するために供された池敷地と溝敷地でありその弁米も右承役地に対する地役権の設定の報償として定められたことはさきに認定したとおりであるから、右承役地を以つて農業用施設とみるは格別同法にいわゆる農地とは解されず又右弁米を以つて同法の小作料ということはできないのみならず、本件の如く潅漑を目的とする池及び溝敷地の地役権の報償である弁米を農地の小作料と同様に取扱うことも適当ではないものといわなければならない。けだしこれを積極的に解するときは、採草地放牧地は勿論農耕者の住宅用の敷地をも農地の耕作のために必要な土地であるからとしてその使用の対価につき右小作料の規定を適用することになるからである。なお又本件弁米契約は前叙の如くその価格を以つて履行しうる旨の特約もなされており物価統制令の施行後には玄米の価格も公定されているのであるから、右弁米もその公定価格によつて支払われれば足るのであつて、社会情勢やその他の事情に著しい変動を生じたからといつて強ち右弁米の支払は農地法による小作料として改訂されなければならないとも考えられない。更に又原告等の主張する消費者価格も生産者価格、家計費及び物価その他の経済事情を参酌して定められたものであつて販売業者と消費者との間における価格であるから本件弁米契約における玄米の価格としては適当ではない。ところが玄米の生産者価格は昭和二十一年度産米以降いわゆるパリテイ計算方式(但し昭和二十七年度産米についてはパリテイ方式によつて算出された価格に特別加算額を加えて決定された)によつて決定されているのみならず、被告等はいずれも米の生産者であることは弁論の全趣旨に徴し明かであり、これらの点から考えると米価の統制された以後においてはその各支払期における玄米の生産者価格を以つて本件弁米契約における玄米の価格に該るものと解するのが最も妥当であるといわなければならない。しかして右弁米契約においてはその品質について別段の定めがなされたことにつき何等主張も立証もないから、被告等は中等の品質を有する玄米の価格を以つて支払うべきであり玄米の生産者公定価格は中等品である三等米にあつては六十粁につき昭和二十一年末においては金二百二十円、昭和二十二年末においては金七百一円六十銭、昭和二十三年末においては金千四百七十五円、昭和二十四年末においては金千七百四十七円、昭和二十五年末においては金二千百十五円であるから昭和二十一年以降同二十三年七月二日迄の一箇年玄米十八石五斗三升(本件承役地全部の分であつて四斗を六十粁とする)の割合によつて計算した合計額金七万六千九百五十一円四十一銭については被告等全部において連帯して支払う義務があり、昭和二十三年七月三日以降昭和二十四年二月末日迄の一箇年玄米十八石五斗三升の割合によつて計算した金額金四万七千百五十二円八十八銭及び同年三月一日以降昭和二十五年迄の二町二反八畝五歩に対する一箇年の弁米五石六斗九升七合(前示買収処分以外の溝敷地に対する分であつて承役地溝の全部である二町八反三畝九歩に対する弁米は年七石七升五合であるから二町二反八畝五歩に対する弁米は年五石六斗九升七合となる)の割合によつて計算した金額金五万二千四百十一円三十九銭の合計金九万九千五百六十四円二十七銭については被告小岸武史を除く爾余の各被告において連帯して払支う義務があるものというべきところ、被告等は昭和二十七年七月二日原告等に対し右債務につき金四千五百十七円を弁済供託したことは当事者間に争いがないからこれを法定充当するにおいては原告等に対し被告等全部はなお連帯して金七万二千四百三十四円四十一銭の支払義務があり、被告小岸武史を除く爾余の被告三十二名は連帯して金九万九千五百六十四円二十七銭の支払義務があるものといわなければならない。

原告等は以上の判断中政府による土地の買収の点及び昭和二十一年以降の弁米債権の有無並びにその額の点を除きその余の争点については既に二回に亘り当裁判所において原被告等(その前主も含む)が当事者である同一内容の事件で悉く判断され該判決は確定し既判力を有しているから、最早被告等は右事実及び法律関係に反する主張は許されないと主張するが、確定判決はその主文に包含せられるものに限り既判力を生ずるのであつて、主文の示す判断の理由となつた事実及び法律関係には及ばないものと解すべきところ、原告等主張に係る明治二十七年及び昭和二十二年四月言渡の確定判決の主文は昭和二十年以前の弁米給付義務を認めたのみであつて本件の訴の対象と同一でないことは当事者弁論の全趣旨に徴し明かであるから、右確定判決においてたとえ本件訴と同一の事実又は法律関係について判断がなされていても前叙認定の各事実及び法律関係については何等の拘束力をもつものではない。以上のようなわけであるから本件においてはその各争点について一々判断を加えた次第である。

よつて原告等の本訴請求は被告等全部に対し金七万二千四百三十四円四十一銭の連帯支払と被告小岸武史を除く爾余の各被告に対し金九万九千五百六十四円二十七銭の連帯支払を求める範囲において正当としてこれを認容し爾余の点については失当として棄却すべく、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十三条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条をそれぞれ適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 木戸和喜男 中瀬古信由 家村繁治)

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